
成績が上がる前に起きている、小さな変化を見逃さないために

「塾に通い始めたのに、なかなか成績が上がらない」
「家では相変わらず勉強しないし、本当に変わっているのかしら」
そんなふうに感じたことはありませんか。
お子さんのことを思えばこそ、早く結果を出してほしい。
少しでも勉強ができるようになって、将来の選択肢を広げてほしい。
そう願うのは、親として自然なことだと思います。
ただ、長年子どもたちを指導してきて、私には一つ、強く感じていることがあります。
それは、子どもが大きく変わるまでには、私たち大人が思っている以上に時間がかかることがあるということです。
しかも、変わり方は一人ひとり違います。
ある日を境に、見違えるように勉強するようになる子もいます。
一度はやる気になったのに、また元に戻ってしまう子もいます。
それでも、毎日の小さな変化を積み重ねながら、子どもたちは少しずつ成長していくんですね。
では、子どもが「自分もできるんだ」と思えるようになるのは、どんなときなのでしょうか。
今回は、これまでに指導してきた生徒たちの話を交えながら、子どもが変わるきっかけについてお話ししたいと思います。
子どもが変わるのは、「自分にもできる」と思えたとき

これまでたくさんの生徒を見てきましたが、「この子は変わったな」と強く感じるのは、やはり結果が出たときです。
例えば、それまでなかなか点数が取れなかった子が、テストでいい点数を取れるようになる。
もちろん、点数が上がること自体もうれしいのですが、私が大切だと思っているのは、そのときの本人の気持ちです。
「なんだ、自分にもできるじゃん」
「このやり方で勉強していけば、もっとできるようになるかもしれない」
そういう手応えをつかんだときに、子どもは大きく変わることがあります。
よく、やる気が出れば成績が上がると言われますよね。
それも間違いではないと思います。
でも、私の経験では、むしろ逆のケースが多いんです。
最初からやる気に満ちあふれているわけではない。
言われたから、あるいは塾に来たから、とりあえず勉強している。
そんな子が、あるとき結果を出す。
そこで初めて、「今までやってきたことは無駄じゃなかったんだ」と気づくんですね。
その実感が、自分から勉強するための大きなきっかけになります。
分数の計算も苦手だった子が、早稲田大学に合格するまで

最近の生徒で、特に印象に残っている子がいます。
今年、早稲田大学に合格した生徒です。
その子が入塾してきたのは、小学校6年生のときでした。
当時は、算数の分数の計算も十分にできない状態だったんです。
中学校に入ってからも、最初から成績がよかったわけではありません。
ところが、中学3年生になった頃から、大きく変わり始めました。
きっかけの一つは、英語でした。
もともと英語が好きだったのですが、学校の先生には、なかなか自分の力を認めてもらえなかったようなんですね。
本人としては、それが悔しかったんだと思います。
「だったら、結果を出して認めてもらおう」
そんな気持ちで、勉強に取り組むようになりました。
その子は、学校であったことや、自分が感じていることを、塾でもよく話してくれました。
私からは、認めてもらえないことに反発するよりも、まずは自分がやるべきことをやって、きちんと結果を残していけばいいんじゃないか、という話をしました。
また、中学3年生の夏休みには、税に関する作文で賞をもらい、地域の新聞にも掲載されました。
勉強だけでなく、自分なりの考えもしっかりしてきた時期だったのかもしれません。
高校受験を迎える頃には、本人の中に自信が生まれていました。
高校進学後は、自分で目標を決め、そこに向かって努力するようになったんです。

もちろん、すべてが順調だったわけではありません。
自分の考えが強くなった分、「これが正しい」と思い込んで、突き進もうとすることもありました。
そんなときは、本人の考えを尊重しながら、「でも、こういう考え方もあるんじゃない?」と、別の視点を伝えるようにしていました。
長い付き合いの中で信頼関係ができていたので、そうした話も受け入れてくれたんですね。
子どもが自信を持つことは大切です。
ただ、それは大人が何も言わず、好きなようにさせることとは違います。
自分で進む力を育てながら、必要なときには別の道も示してあげる。
それも、私たちの大切な役割だと思っています。
成長は、いつも一直線とは限りません

一方で、一度やる気になったからといって、そのまま順調に伸びていく子ばかりではありません。
以前、勤めていた塾で指導していた生徒に、自分の考えをとてもしっかり持っている子がいました。
やりたいことも、はっきりしているんです。
高校を選んだ理由の一つは、ウォーターボーイズをやりたかったから。
実際に進学してから、その活動にも取り組んでいました。
大学受験のときには、海外の大学に行きたいという希望も持っていました。
ところが、勉強に関しては、なかなか安定しませんでした。
頑張るときは頑張るのですが、しばらくすると、また勉強しなくなってしまう。
こちらと意見がぶつかることもありました。
保護者の方とも、何度も面談を重ねました。
最終的には国内の大学に進学したのですが、大学合格が決まったときには、わざわざ報告に来てくれたんです。

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その後、仕事の転機に、半年ほど私の塾を手伝ってもらったこともありました。
小学生の指導をお願いしたところ、子どもたちを引っ張っていくのがとても上手だったんですね。
子どもたちからも慕われていました。
もともと、人を引きつける力を持っていたんだと思います。
最近連絡を取ったときには、オーストラリアにいると話してくれました。
昔から持っていた、海外に行きたいという思いを、今も追いかけているんですね。
この子の場合、勉強に関しては、決して順調ではありませんでした。
それでも、自分の中に「こうしたい」という思いは、ずっと持ち続けていたんです。
子どもの成長は、テストの点数だけで測れるものではありません。
途中で立ち止まることがあっても、遠回りをすることがあっても、その子なりの成長の仕方がある。
長く子どもたちと関わっていると、そんなことを感じます。
実は、私自身も昔は待てませんでした

ここまで読んで、「でも、結果が出るまで、そんなに長く待てない」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。
その気持ちは、よくわかります。
実は、私自身も、若い頃はそれほど待てる指導者ではありませんでした。
大手の学習塾に勤めていた頃は、とにかく早く結果を出すことが求められました。
成績を上げること、志望校に合格させること。
それが塾として評価される大きな基準だったんです。
もちろん、塾である以上、結果を出すことは大切です。
ただ、結果ばかりを追いかけていると、本来の教育から離れてしまうような気がしていました。
当時、先輩から「塾って、教育じゃなくてサービス業じゃないか」と言われ、考え方が食い違ったこともあります。
確かに、保護者の方の要望に応えることも、塾の大切な仕事です。
でも、私たちが関わっているのは、成長の途中にいる子どもたちです。
お客さまの要望に応えることと、その子にとって本当に必要な教育をすることは、必ずしも同じではありません。
自分で塾を始めてからは、少しずつ、長い目で子どもを見るようになりました。
その中で、1年ほど指導を続けて、ようやく大きく変わり始める子もいることがわかったんです。
それまでは、なかなか結果が出ない。
でも、基礎を積み重ねているうちに、あるとき急に問題が解けるようになる。
そして、本人が自信を持ち始める。
そういう生徒を何人も見てきたことで、私自身も、以前より待てるようになったのだと思います。
成績が上がる前にも、子どもは変わっています

現在は、入塾を検討されている保護者の方にも、最初の面談で、結果が出るまでには時間がかかることをお伝えしています。
早い子なら半年ほどで成果が見えてくることもありますが、1年程度はかかるつもりで取り組んでいただきたい、というお話をしています。
とはいえ、1年間、何の変化も起こらないわけではありません。
学校のテストの点数には、まだ表れていないだけなんです。
例えば、以前は途中で諦めていた問題に、最後まで取り組めるようになった。
わからないところを、自分から質問できるようになった。
確認テストで、少しずつ正解が増えてきた。
こうした小さな変化は、日々の授業の中で起こっています。
今年の春に入塾した中学1年生のお子さんについても、お母さんと面談をした際、成績以外の部分で変わってきたところをお伝えしました。
すると、「言われてみれば、確かにそうですね」という反応が返ってきました。
保護者の方も、お子さんの変化にまったく気づいていないわけではないんですね。
ただ、どうしてもテストの点数や成績表が気になるので、日々の小さな変化には目を向けにくくなっているのかもしれません。
そんなとき、私たちが「以前と比べて、ここが変わってきていますよ」と具体的にお伝えする。
すると、保護者の方にも少し余裕が生まれます。
目の前の成績だけでなく、「この子は、これからどんなふうに成長していくんだろう」と、少し先の未来を見られるようになるんです。
だから私は、テストの点数だけでは伝わらない変化を、面談でお話しすることを大切にしています。
「できた!」を経験しやすい時期があります

もう一つ、長年の指導を通じて感じていることがあります。
それは、子どもが自信をつかみやすいタイミングがある、ということです。
昨年の冬、中学1年生の生徒が入塾してきました。
当時は、学校の授業がほとんどわからず、数学の成績は「1」。
基本的な計算も、十分にはできない状態でした。
そこで、学校の授業に無理に追いつこうとするのではなく、まずは本人ができるところから、基礎を積み重ねることにしました。
すぐに成績が上がったわけではありません。
ところが、中学2年生に進級した頃から、少しずつ変わり始めたんです。
新しい学年になり、比較的取り組みやすい単元から授業が始まったことも、本人にとってよかったのかもしれません。
「あ、これはできる」
「これもできるようになった」
そんな経験を、一つひとつ積み重ねていきました。
最近では、学校で数学に困っている友達に、勉強を教えることもあるそうです。
入塾した頃の様子を思い出すと、大きな変化です。
ここで重要なのは、新学年になってから、突然勉強ができるようになったわけではないということです。
その前の冬から、できることを少しずつ増やしてきた。
だからこそ、新しい学年になったとき、成功体験をつかむことができたのだと思います。
私たちの地域では、10月に前期の成績表が配られます。
それを見て、「このままではまずい」と塾を探し始めるご家庭も少なくありません。
ただ、秋から冬にかけては、学校の学習内容が難しくなっていく時期でもあります。
塾に入ったからといって、すぐに点数を上げるのは簡単ではありません。
でも、そこで勉強を始める意味は、十分にあります。
秋から冬にかけて基礎を固めておけば、翌年の新学期に、いいスタートを切れる可能性があるからです。
4月になってから慌てて準備するのではなく、その前から少しずつ取り組んでおく。
今の成績を何とかすることだけでなく、次の学年で「自分にもできる」という経験をつかむために、今から準備するという考え方もあるんですね。
子どもが変わるまで、大人にできること

子どもが変わるきっかけは、一人ひとり違います。
テストでいい点数を取ることかもしれません。
今まで解けなかった問題が、自分で解けるようになることかもしれません。
あるいは、誰かに勉強を教えてあげたときに、初めて自分の成長を実感する子もいるでしょう。
その瞬間がいつ訪れるのか、正確に予測することはできません。
だからこそ、大人ができるのは、結果が出るまで何もせずに待つことではなく、小さな変化を見つけながら、その子が自信をつかめるように支え続けることだと思っています。
昨日より少し長く勉強できた。
前はわからなかった問題が、一つ解けるようになった。
自分から質問するようになった。
そんな変化があれば、ぜひ認めてあげてください。
大きな結果は、ある日突然、何もないところから生まれるわけではありません。
毎日の小さな「できた」が積み重なり、やがて本人の中で、「自分にもできる」という確信に変わっていくんです。
私たちも、その瞬間が訪れるまで、一人ひとりの成長を見守り、必要な手助けを続けていきたいと思っています。
そして、子どもが自分の力で一歩を踏み出したときには、その成長を一緒に喜びたいですね。

